日本のケベック研究
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39 対談要旨 真田:私は1960年代の生まれで、ケベックに行ったのは80年代後半から90年代初めですが、その際に感じたのは、ケベックが「辺境の地」というものでした。私の世代と違ってグローバル化の進んだ80年代にお生まれの佐々木さんが、ケベックをどう感じられたか教えてください。 佐々木:私は2000年代に学部の学生だったときに、ワーキング・ホリデーでモントリオールに住んでいました。その際にルームシェアをしていた現地のケベコワーズたちは、携帯電話も持たず最低限の生活をしていたのですが、休みの日は友人たちと音楽を楽しんだり、自分たちで植物栽培や創作料理をしたりと、とても芸術的な人たちで、日本にない豊かさがある場所だと感じました。その後日本に戻って、ケベックの人たちの意識について文学を通じて分析してみたいと思い、真田先生も翻訳をされているガブリエル・ロワやアンヌ・エベールを読んで研究してきました。 真田:ロワもエベールも私がモントリオール大学で学んでいるときに読むように薦められたものですが、この2人は非常に対照的な作家だと思います。エベールはケベックが閉鎖社会から近代的な社会に生まれ変わる時期に、ケベックの風土、社会と人間の情念を結びつけて見事に作品化した作家であるのに対して、ロワのほうは、マイノリティや様々な移民の多様な姿を流麗で繊細な筆致で書いていて、50年代ですでに人々の共存というテーマで、人の絆といった人間関係の原点をさぐるような作品書いた作家といえます。 佐々木さんは、ケベックの文学と病院といったユニークな視点で研究をされているのはなぜですか。 佐々木:それは先に触れました最低限の生活をしていても楽しく豊かに生きられるという生活様式にひかれて、進歩や文明との衝突が取り上げられているロワの初期の作品を読んだところ、病院が文明の象徴であるとともに人の命を救うところとして描かれているので、そこから病院に興味を持って研究するようになりました。ところで真田先生がモントリオール大学に留学されていたときの学生生活のご様子などをお聞かせください。 真田:何もかも新鮮でとても楽しかったです。芸術的な側面が日常の中にあるということで、ある日乗っていたバスの運転手が急に歌い出して、乗客も手拍子をして楽しんだことや、家族についても多様な国際結婚や養子縁組が見られて、多様性が生活の内部に深く入り込んで進展しているということに驚きました。 佐々木:私にとってはケベックは古き良き生活を送る人たちというイメージですが、真田先生は多様性や多元性を発見されたというわけですね。 真田:ケベックは近年急速に変わってきており、私の時代には「辺境の地」であったものが、佐々木さんのときには刺激的で創造的な社会になっていたと思います。それもケベックがかつての葛藤やジレンマをくぐりぬけて、今の時代に輝いていて、新しい価値を得てきているからではないでしょうか。 ----------------------------------------------------------------------------------------------—————- 佐々木菜緒(明治大学)インタビュー(日本語): http://youtu.be/nfcmr6dua60 真田桂子(阪南大学)インタビュー(日本語): http://youtu.be/4tLRUGSOsls 特別寄稿: 「対談番外編」 https://docs.google.com/document/d/1AYfTtB14-vivKiFWU-Knevd4FaynvWGXmLfYCaFzh-U/edit
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