日本のケベック研究
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21 荒木隆人の主要業績: 1.「マルチナショナル連邦制におけるケベックの人権(言語権)を巡る論争についての考察―カナダ1982年憲法闘争を手掛かりに―」「ケベック研究」第6号 2014年、90-98頁 2.「カナダ連邦政治とケベック政治闘争―カナダ1982年憲法を巡る政治過程―」博士学位論文(京都大学) 2014年 3.「ケベック言語法を巡る政治闘争:集団の権利と個人の権利の相克」「ケベック研究」第3号 2011 年、43-63頁 4.「カナダにおける不均等連邦制の可能性と限界(二)・完」「法学論叢」第166巻5号 2010年、58-83頁 5.「カナダにおける不均等連邦制の可能性と限界(一)」「法学論叢」第166巻3号 2009年、36-62頁 インタビュー要旨 1.まず簡単に自己紹介いただき、これまでやられてきたご研究の主要テーマは何かお話しください 2014年4月から京都大学法学研究科の助教をしております荒木隆人と申します。私は、多くのフランス語系住民が居住しているケベック州がカナダ連邦政府に対して行う政治的自決の運動、いわゆるケベック・ナショナリズムを主要な研究テーマにしています。とりわけ、マルチナショナル連邦制(fédéralisme multinational)や不均等連邦制(fédéralisme asymétrique)といった、一つの国家の中で多様なネイションの共存を図る連邦制がケベック・ナショナリズムに対してもつ可能性に強い関心をもっております。京都大学法学研究科博士後期課程在籍中に、モントリオールにあるケベック大学モントリオール校の政治学研究科修士課程に留学し、ケベック政治の専門家として知られるマルク・シュヴリエ先生の下で勉強する機会を得たことは、私の研究を理論的にも実証的にも深めるとてもよい経験になりました。 2.現在のご研究の具体的なテーマと結論についてご説明いただけますか。 2014年3月に京都大学法学研究科に提出した博士論文では、1982年カナダ憲法制定と人権憲章を巡る英語系カナダとフランス語系カナダの対立を取り上げ、両者における言語使用権を中心とする権利概念の相違を明らかにしました。結論としては、ケベック州の言語使用権を中心とする権利の主張は、単に集団主義的な主張ではなく、各個人が自らの言語を使って生活する個人的権利を発展させるために、集団的な権利を要求するという個人主義的な権利と集団主義的な権利の相互補完的な発展を志向する主張であることを明らかにしました。ケベック州が主張する言語権を、このように再検討することにより、マルチナショナル連邦制の正当性を高めることに貢献できたのではないかと考えています。 3.今後のご研究の課題や抱負についてお聞かせください。 今後は、近年、ケベック州で議論されている独自の社会統合政策である間文化主義の思想について理論的・実証的研究を行う予定です。間文化主義とは、ケベック州において、多数派の文化であるフランス語を文化の核としつつ、同時にその他の少数派の文化集団を、文化相互の絶えざる対話を通じながら、一つの共通文化をもつ文化集団に統合していく社会統合政策の思想です。しかしながら、この間文化主義の検討はケベック州においてもまだ端緒についたばかりであり、理論上様々な問題を有しているといえます。それゆえ、この間文化主義の政治的意義と政策的可能性を実証的、理論的に検討することが必要であると考えています。 --------------------------------------------------------------------------------------------------------

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